【判例解説】遺産分割後の負担不履行を理由とする解除

【判例解説】遺産分割後の負担不履行を理由とする解除

事案の概要

(事案を簡略化して説明します。)

被相続人Hの相続人は、妻A、長男B、二男C、三男Dであり、被相続人の遺産は、自宅不動産、事業用不動産等がありました。

H死亡後、自宅その他をAが相続し、事業用不動産の大半をBが相続し、事業用不動産の一部をCとDが相続する、という内容の遺産分割協議が成立しました。

さらに、相続人間において「Bは、①C,Dと兄弟として仲良く交際する、②Aと同居する、③Aを扶養し身の回りの世話をする、④先祖の祭祀を承継し各祭事を誠実に実行する」との4つの項目が合意されました。

しかし、その後、BとC,Dは事業をめぐって対立を深め、また、AとBは同居したもののその仲は険悪となり、BがAの食事の支度を拒否し、Aの健康保険を打ち切り、Aを殴打するなどの事態となりました。さらに、Hの法要等はBではなくAが行いました。

これらの事情から、BとCは、遺産分割の条件として上記4要件が合意されたにもかかわらずBは遵守しなかったとして、Bの債務不履行を理由として、遺産分割協議ないし負担付贈与契約を解除する旨の意思表示を行い、法定相続分に基づく登記手続きを求めて提訴しました。

裁判所と裁判年月日

裁判所:最高裁判所第一小法廷
裁判年月日:平成元年2月9日

本件の争点

本件の争点は、民法541条の解除の規定が遺産分割協議にも適用されるか否かです。

その中には細かい論点として、ⅰ)民法541条は有償双務契約に限定して適用されるのか、仮にそうである場合、遺産分割協議は双務契約としての性質を備えているのか、ⅱ)民法541条は広く契約一般について適用されるとしても(従来からの判例の考え方)、遺産分割の特殊性から遺産分割協議には民法541条は適用されないのではないか、という論点が含まれています。

結論

最高裁は「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。」と結論付けました。

その理由としては「遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべき」と述べています。

つまり、最高裁は、遺産分割の特殊性を理由に民法541条の適用はないと判断したのです。

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