紀州のドン・ファン事件無罪判決

紀州のドン・ファン事件無罪判決

以前のコラムでは、紀州のドン・ファン事件の裁判が結審(令和6年11月18日)した際に、ドン・ファン事件の概要などを解説しました。そして、この裁判で今月12日、和歌山地裁で無罪判決が出されました。

今回は無罪判決となったその理由などについて解説していきます。

事件の概要

事件の概要としては、紀州のドン・ファンと呼ばれた和歌山県の資産家の野崎さんが自宅で急性覚醒剤中毒で亡くなり、配偶者であった女性のSさんが殺人罪などで起訴されました。

裁判のポイント

この裁判のポイントとしては、①野崎さんが死亡したとされる時間帯に自宅にいたのは野崎さんとSさんだけであった、しかし、②Sさんが野崎さんを殺害したといえる直接の物的証拠がない、③殺害方法について検察官は「被告人が何らかの方法で野崎さんに致死量の覚醒剤を摂取させて殺害した」と主張しているのですが、殺害方法を特定しないまま起訴しているという点が挙げられます。

検察官は、「被告人には莫大な遺産を得るために野崎さんを殺害するという動機があった」と指摘し、携帯電話で「老人 完全犯罪」や「覚醒剤 過剰摂取」などの検索履歴があるので、計画的に殺人の完全犯罪を企てたという主張を行いました。

これに対して、弁護側は、「野崎さんが自分で覚醒剤を飲んだ可能性がある」と主張し、「覚醒剤の摂取方法について検索した履歴がない」などと反論していました。

判決の概要

12月12日の判決で、和歌山地裁の裁判長は、「被告人が野崎さんと二人きりになる時間があったこと」を認めました。また、「野崎さんが亡くなると被告人は多額の資産を得ることができるので、動機になりうる」とも述べました。

しかし、裁判長は、「携帯電話に『覚醒剤』や『完全犯罪』などの検索履歴があっても、殺害を計画していたとまでは推認できない」、「野崎さんが覚醒剤を誤って過剰摂取した可能性を否定できない」と述べて、「犯罪の証明がない」として無罪を言い渡しました(「誰が犯人か」という話に行く前に「犯罪」かどうかも分からないという意味)。

証拠の妥当性

今回の裁判では、直接的な物的証拠がありませんでした。もちろん、直接的な証拠がなくても、間接的な証拠を積み上げて有罪を立証することは可能です。

この裁判でも、検察官は、多くの間接証拠を積み上げたのだと思います(証人尋問は28名!)。

ただ、この事件の場合、被告人が覚醒剤を摂取させた方法も特定出来ていないという、かなり検察官にとって厳しい状況がありました。また、Sさんは結婚をしているのですから、野崎さんを殺害しなくても、野崎さんが死亡すれば遺産を取得できるという地位にありますので、「遺産を取得するために殺害する」という動機は説得力が弱いという面もあったかもしれません。

もっとも、一審判決が出ただけであり、おそらく検察は控訴すると思われますので、最終結論はまだ分かりません。

最後に

この裁判は、テレビなどでも大きく取り上げられて話題になりました。テレビのワイドショーなどを見ていると、「Sさんは酷い女だ、計画殺人に間違いない」と思ってしまう人もいるかも知れません。

しかし、刑事裁判の鉄則は「疑わしきは罰せず」ですので、有罪の証明ができない場合は無罪です。テレビ報道のイメージだけで判断しないようにしないといけません。

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