(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hの相続人は妻Aと子Bでした。
Hは生前、自己所有土地の一部にAが建物を建てることを許諾し、Aは本件建物を建築しました。その際、建築費用46万円のうち20万円をHが贈与しました。
その後、HはAと本件建物で9年間同居生活を営み、主としてAが本件建物で営む飲食店の収入で生活を維持しました。
H死亡後、BはHによるAに対する土地使用借権の設定と20万円の建築資金の贈与は特別受益に該当すると主張しました。
裁判所: 東京高等裁判所
裁判年月日:昭和57年3月16日
一般に、被相続人が所有する土地の上に相続人が建物を建てた場合、土地の使用借権が設定されたことになり、使用借権相当額(土地の価額の1割程度)が特別受益となります。また、相続人が建物を建てる際に被相続人が資金を援助した場合、援助した額は特別受益に該当します。
したがって、本件において、HがAに対して使用借権を設定したことと20万円を贈与したことは特別受益に該当します。
しなしながら、その後、Aが建てた本件建物でHとAが共同生活を行ったことやAが営む飲食店の収入で生活を維持していたような事情がある場合には、HはAに対し、黙示に特別受益の持戻し免除の意思表示を行ったといえるのではないか、が争点となりました。
東京高裁は、上記使用借権の設定及び20万円の贈与を特別受益として認定した上で「被相続人は、その後死亡までの約9年間、右相手方(Aのこと)の建築した地上建物に同人と夫婦として同居生活を送り、主として同人が右建物で営む飲屋の収入によって生活を維持していたものであって、このように、右相手方が贈与を受けた財産を基礎として、被相続人自身の生活に寄与してきた事情からすれば、被相続人としては、遅くとも相続開始の前頃には、右生前贈与をもって、相続分の前渡しとして相続財産に算入すべきものとする意思は有していなかったものとみることができ、したがって、特段の反証のない限り、被相続人は、相手方Aに対し黙示に右特別受益の持戻の免除の意思表示をしたものと推認するのが相当」と判示し、黙示の持戻し免除の意思表示を認めました。