(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hの法定相続人は、長女A、長男B、二男C、二女Dの4人でした。
Bは農家の跡取りとして、Hの農業を40年間以上手伝い、その相続財産である農地等の維持管理に努めました。
原審判は、Bの寄与分を7割として、遺産合計5500万円から7割を引いた残額である1650万円の4分の1にあたる412万円をAに取得させました(CとDについては省略します。)。
これに対して、AはBの寄与分が7割というのは過大すぎるとして即時抗告しました。
裁判所:東京高等裁判所
裁判年月日:平成3年12月24日
原審判はBの寄与分を7割と定めたことにより、Aの取得額は412万円となり、Aの遺留分の額(687万円)よりも少なくなりました。
寄与分については、法文上、他の相続人の遺留分を侵害してはならないという制限は存在しません。
そこで、他の相続人の遺留分の額に食い込む寄与分の定めが認められるのかが本件の争点です。
東京高裁は「寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(1031条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(904条の2第2項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」と述べて、原審判を取り消し、家庭裁判所へ差し戻しました。
本決定は、遺留分の額に食い込む寄与分を定めることは違法ではないが、そのような内容の寄与分を定めるには慎重に判断しなければならない旨を示したものといえます。