「さすべえ」は違法か(再考)

「さすべえ」は違法か(再考)

自転車の違法運転に青切符が導入される

本年(2026年)4月1日より、自転車の違反運転に対して青切符が導入されます。

青切符の導入を前にして警察に多数の問合せが入っていることを以前のコラム(「さすべえ」は違法か)で紹介しました。

今回、いよいよ青切符が導入される目前となりましたので、「さすべえは違法か」について改めて考察を行いました。

「さすべえは違法か」問題

「さすべえ」に関しては、多くのwebサイトがその合法性について取り上げており、一大論争の様相を呈しています。

「さすべえ」の合法性については、おおまかに二つの論点があります。

一つは、以前私が書いたコラムのように、「さすべえ」を使用して傘を開いて自転車を走行すれば「普通自転車」といえなくなるため歩道の走行が禁止される、という見解です。

もう一つは、都道府県の道路交通法施行細則等で、多くの場合、自転車の積載制限として、「積載装置の幅に加えて30㎝を超えるものを積載してはならない」と規定されていることを根拠に違法性を指摘する見解です。

普通自転車なのか

以前のコラムでは、自転車には「普通自転車」とそれ以外の「自転車」があり、「普通自転車」といえるためには「積載物も含めて」自転車の幅が60㎝以内でなければならないので、「さすべえ」を使用して傘を開いた状態では歩道走行が禁止されるとの解説を行いました。

解釈の変更か

以前のコラムを書いた時期には、「普通自転車」というためには「積載物も含めて」60㎝以内でなければならないとの解釈が一般的でした。

しかし、今回、改めて調べてみると、「積載物も含めて」60㎝以内でなければならないという公式見解が見当たりませんでした。

「普通自転車」の解釈が変更された可能性があります。この点については後に詳しく説明します。

積載制限について

道路交通法57条2項に「公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要があると認めるときは、軽車両の乗車人員又は積載重量等の制限について定めることができる。」と規定されています。

これを受けて、多くの都道府県では、「積載装置の幅に加えて30㎝を超えるものを積載してはならない」という規定を設けています。「積載装置の左右から15㎝を超えてはみ出してはいけない」という規定の仕方もありますが、実質的にほぼ同じ内容です。

上記の規定を「さすべえ」に適用した場合、「さすべえ」を「積載装置」とみなして、開いた状態の傘を「積載物」と考えると、「さすべえ」の幅は5~10㎝程度だと思われますので、傘の直径が35~40㎝を超えるものはこの規定に違反する(ほとんどの傘は違反になる)、という論拠が多く見られます。

罪刑法定主義

「罪刑法定主義」は、「あらかじめ法律で『何が犯罪か』『どんな刑罰か』を決めておかなければ、誰も処罰してはいけない」という近代刑法の大原則です。何が犯罪行為に当たるのかについて明確に決めておかないと国民の行動は萎縮してしまいますし、国家権力は気に入らない者を自由に処罰できるようになってしまいます。

また、罪刑法定主義から派生する原則が幾つかあるのですが、ここで取り上げたいのは「類推解釈禁止原則」と「明確性の原則」です。

「類推解釈」とは、法律が本来予想している範囲を超えて類似した事項に適用することです。民法などの刑法以外の法体系では許容されますが、刑法においては罪刑法定主義に反するので禁止されています。

「明確性の原則」とは、「何が犯罪行為であるのか」「どの線を踏み越えればアウトなのか」が法令上明確になっていないといけないという原則です。
この原則も、国民が安心して生活するために必要なことであり、罪刑法定主義から導かれます。

「積載装置+30㎝まで」の規定についての考察

前述したように、多くの都道府県で自転車の積載制限として「積載装置+30㎝まで」との規定が置かれています。

そもそも、この規定の本来の適用範囲は、自転車の荷台と前かごに荷物を載せることを想定していました。

「さすべえ」という固定器具を用いて傘を支えることは想定していなかったはずです。

そう考えると、当該規定を「さすべえ」に適用するのは「類推解釈禁止原則」に反する可能性があります。

また、「積載装置」という文言が明確に「さすべえ」を含むといえるのかというとやや疑問であり、「明確性の原則」にも反する可能性があります。

このように罪刑法定主義の見地から考えると、「積載装置の幅に加えて30㎝を超えるものを積載してはならない」という規定を根拠に、直ちに「さすべえ」を違法と断定することは困難なように思います。

普通自転車の幅についての解釈変更

以前は、「普通自転車」といえるためには「積載物も含めて」幅が60㎝以内でなければならないとの解釈が一般的でした。

ところが、現在、インターネット等を調べても、そのような公式見解が見当たりません。

その理由を私なりに考えてみました。

元々、自転車の違反については現実的に取り締まるのが難しく、「口頭の注意」で終わることがほとんどでした。そのような時代背景においては、なるべく安全な運転を心がけてほしい警察としては、積載物を含めて幅が60㎝を超える場合であっても、歩行者の安全確保の見地から「それは違反ですよ」という対応をしていたのだと思います。

ところが、今回、自転車の違法行為に対する扱いが厳しくなり、青切符も導入して積極的に取り締まっていくことになりました。

そうなると、前述した罪刑法定主義の見地から、「類推解釈禁止原則」や「明確性の原則」を厳格に守らなければならないという要請が出てきます(単に注意するだけなのと実際に罰則を科すのとでは性質が変わってくる)。

そのような考え方から、「普通自転車」の幅の規制についても「積載物を含む」という解釈は安易に用いるべきではない、という発想になります。

そのため、現在では、警察などの公的機関は「積載物を含めて60㎝」という解釈を明言しなくなったものと思われます。

まとめ

まとめますと、①「普通自転車」といえるためには「積載物も含めて」幅が60㎝以内でなければならないから「さすべえ」を使用して傘を開いて走行する場合は歩道を走行できない、という見解も、②「積載装置の幅に加えて30㎝を超えるものを積載してはならない」という規定があるから「さすべえ」を使用して傘を開いて走行する行為は違法、という見解も、現時点では採用できないものと考えます。

もっとも、視野を妨げたり車両の安定を害するような積載をしての運転の禁止(道路交通法55条2項)や安全運転義務(同法70条)に違反する可能性はあるので注意が必要です。

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