9月,布川事件の国賠訴訟において国と県の敗訴が確定したというニュースがありました。
布川事件というのは,1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件です。
物証がないまま2人の青年が起訴されて無期懲役の判決を受けて服役し,2人は仮出所後に再審請求を行いました。
1回目の再審請求は退けられましたが,2回目の再審請求で再審が開始され,2011年に再審無罪判決が確定しました。
再審では,被告人の無罪方向に働く証拠が多数隠されていたことが判明し,自白も虚偽であったことが認められました。
国家賠償請求(国賠請求)とは,公務員が不法行為を行った場合に国や自治体に対して損害賠償を請求できる制度です。
今回のケースのように刑事事件で無罪になった案件で国賠請求が行われることはしばしばあります。
もっとも,刑事判決で無罪になったからといって必ず国賠請求が認められるわけではありません。
なぜかというと,国賠請求が認められるためには公務員の「不法行為」があったことが必要だからです。
具体的には,例えば,捜査機関が法律に則って最善を尽くして証拠を集めて,「証拠関係から犯人に間違いない」と考えて起訴した場合,公務員としての職務を全うしているので「不法行為」とはいえないのです。
このように,結果的に無罪になったとしても「不法行為」がなければ国賠請求は認められません。
公務員の「不法行為」が認められるためには,公務員がその行為を行った当時に公務員としての職務に違反したといえなければなりません。
布川事件では,捜査機関は意図的に被告人の無罪方向へ働く多数の証拠を裁判所に提出せず,しかも,被告人に対して虚偽の自白を誘導していました。これらの点が悪質だと判断されて「不法行為」が認められたようです。
そもそも,問題は,捜査機関(検察)が裁判所に提出する証拠を自由に選べるという制度にあります。
再審無罪となり,国賠で勝訴した桜井昌司さんは記者会見で「全ての証拠開示を義務づける法改正が必要だ」と訴えました。