先月(2019年9月),元大阪府知事の橋下徹氏がジャーナリストに慰謝料を請求した裁判の判決が大阪地裁でありました。
報道によると,2017年10月に,このジャーナリストは橋本氏の言動を批判した第三者の投稿を一度だけリツイートしました。そして12月頃にはリツイートを削除したそうです。
これに対して,橋本氏は「自分がパワハラをする人物だという印象を広く拡散させた」と言って提訴しました。
判決は,名誉毀損に当たるとして,ジャーナリストに33万円の支払いを命じました。
まず,名誉毀損とは何かというと,不特定多数の人に対して,人の社会的評価を低下させるような具体的な事実を述べることです(コラム「名誉毀損と侮辱の違い」参照)。
ですから,2人きりのところで,面と向かって悪口を言っても「名誉毀損」にはなりません。2人以外には誰も聞いていないので,悪口を言われた人の社会的評価は低下しないからです。
そして,具体的な事実を述べる必要があります。たとえば,「AさんはBさんと不倫している」とか,「Aさんは,暴力団と繋がっていて違法なチケット転売事業に加担している」とか,ある程度具体的な話をしないと名誉毀損には当たりません。
これに対して,「Aさんは無能だ」とか「Aさんは全然仕事ができない」などの表現は,具体的な事実を述べていないので名誉毀損には当たりません。
しかし,これはこれで「侮辱」というカテゴリーに入り,場合によっては不法行為が成立しますのでご注意ください。
さて,それでは,今回の判決の場合はどうでしょうか。
報道によると,リツイートした内容は具体的な話が書かれてあり橋本氏の社会的評価を低下させる内容であったことは間違いないようです。
今回の一番の問題は,ジャーナリストが自分で文章を作成したのではなくて,第三者の投稿をリツイートしただけなのに名誉毀損になるのか,という点です。
この点,法律の世界では昔から,「これは噂なんだけど」とか,「これは人から聞いた話だけど」などという形であっても,名誉毀損が成立すると言われています。
そうすると,今回,リツイートという形であっても名誉毀損になるのは妥当な判断ではないかと思われます。
特に,このジャーナリストのツイッターのフォロワーは18万人を超えているそうなので,その影響力を考えると「社会的評価の低下」という点は無視できないだろうと思われます。