先月,フランク三浦とフランク・ミュラーとの裁判で最高裁がフランク三浦勝訴の判決を出しました。
日本の会社がスイスの高級時計「フランク・ミュラー」のパロディー商品「フランク三浦」を販売している件について,「フランク・ミュラー」側が「フランク三浦」の商標登録は,「フランク・ミュラー」に類似しているので無効だと特許庁に訴えました。
すると,特許庁は「『フランク三浦』の商標登録は無効」だと判断しました。
この特許庁の判断に対して,フランク三浦側が裁判所に「無効はおかしい」と訴えました。
この裁判は知的財産の裁判なので,一審が高等裁判所です。これを「知財高裁」と言います。
知財高裁は,「呼称(呼び方)は似ているが,外観で明確に区別できる。」,「『フランク三浦』は4000円〜6000円程度であり,100万円を超える『フランク・ミュラー』と間違うはずがない」などと述べて,商標登録は有効だと判断しました。
商標登録は商標法の問題です。
商標法の考え方は,取引をしようとする人が,「その商品のメーカーを間違うおそれがあるか否か」という基準で判断されます。
知財高裁は,「フランク三浦」の時計には漢字で「三浦」と書いてあることや取引価格が違いすぎることなどから「購入しようとする人が間違えるはずがない」と判断したのです。
裁判で,フランク・ミュラー側は,「ブランドイメージにただ乗りし,イメージを毀損する」と主張していました。
たしかに,ブランドイメージは低下するかもしれません。
しかし,最高裁は,「知財高裁の判断が正しい」として,フランク・ミュラー側の上告を退けました。
感想としては,「商標権」の問題としては,今回の判決は妥当だと思います。
商標権の判断基準は,「メーカーを間違う可能性があるか否か」ですので,漢字で「三浦」と書いてあり,価格も100倍以上も違うとなれば,誰も同じメーカーとは思わないでしょう。
フランク・ミュラーが主張していた,「ブランドイメージにただ乗りし,イメージを毀損する」という点は,商標法ではなく,不正競争防止法の問題でしょう。
不正競争防止法というのは,まさに「ブランドイメージにただ乗り」して儲けることを禁止する法律です。
過去に「スナック・シャネル事件」というのがありました。
「スナック・シャネル」という名前でスナックを経営していた人が本家のシャネルから訴えられました。
スナックのほうは,高級ブランドの「シャネル」と場末のスナックが同じ経営者だと誰も思うはずがない,と主張しましたが,スナックが負けました(最高裁平成10年9月10日判決)。
なぜ,スナックが負けたかというと,不正競争防止法は商標法と違って,「経営者が同じだと勘違いするかどうか」は関係なく,ブランドイメージにただ乗りして儲けることを禁止しているからです。
「スナック・シャネル」という名前が本家の「シャネル」のイメージを利用していることは,誰の目にも明らかでしょう。
この「スナック・シャネル事件」を参考にすると,「フランク三浦」も,もしかしたら,不正競争防止法では負けるかもしれません。
もっとも,不正競争防止法では,ブランドが「著名」であることが必要です。
「全国的に誰でも知っている」程度でないと「著名」とはいえません。
現時点では,フランク・ミュラーは不正競争防止法では訴えていないようですけれど,仮に訴えた場合,裁判所がどのような判断を下すか興味深いところです。