今回は「訴訟」について書いてみたいと思います。
訴訟というのは、自分の主張が法的に正しいということを裁判所に審理してもらう手続きです。つまり、訴訟の目的は、自分の権利主張について国家権力によるお墨付きを与えてもらうということです。
したがって、基本的には当事者同士が話し合うための場ではなく、戦いの場です。ですから、最初から熾烈な戦いになります。熾烈な戦いといっても、まずは、書面を出し合うことから始まります。そして、書面に対して書面で反論する、ということを何度か続けます。
もっとも、実際の裁判期日(裁判が開かれることを期日と言います)では、「書面に書いてあるとおり陳述します。」というだけですので、傍聴に来た人にとっては、熾烈な争いのようには全く見えません。裁判官は、次の期日を決めて、次の期日までに、原告(あるいは被告)に対して、反論書面を○月○日までに出して下さい。」と指示します。こういう感じなので、裁判期日自体は盛り上がるわけではありません。
しかしながら、一見、淡々と事務手続きが進んでいるだけのように見える期日においても、水面下で様々な綱引き、駆け引きが行われているのです。具体的に書くのは難しすぎるのでここでは省略させていただきます。
そのような手続き(弁論準備手続)がしばらく続いたら、いよいよ尋問となります。
尋問には証人尋問と当事者本人尋問があります。よくテレビなどで見るやつです(もっとも、テレビの場合、刑事手続きがほとんどですが)。
証人尋問というのは、当事者ではない第三者が「証人」として証言します。虚偽を述べると偽証罪で処罰される場合があります。
本人尋問は文字通り、当事者本人が尋問に応じます。
本人の場合は、虚偽を述べたとしても偽証罪に問われることはありません(もっとも過料という軽い制裁が課せられる場合があります)。
なぜ、このような違いがあるのかというと、当事者は、どうしても自分の有利なふうに述べる傾向がありますが、心情として、ある程度仕方がないというところがあります。本人が嘘を述べるだろうということはある程度織り込み済みだということです。その代わりと言うか、本人の言うことは、裁判官は、初めから眉唾ものだというつもりで聞いているのです。ですから、本人が一生懸命話しても、簡単には信じてくれません。逆に、ボロが出た場合には、「あなた自滅しましたよ。」と言って相手を勝たせます。(もちろん、このような言い方はしません。わかりやすく表現しただけです。)
ですから、本人尋問というのは慎重に行う必要があります。依頼者の中には、「言いたいことを好きなだけ言わせてくれ。そのために訴訟を起こしたのだから。」という方がよくいらっしゃいます。しかし、興奮してくると、嘘を言うつもりはなくても、言い方によってはちょっとした矛盾(あるいは矛盾とも受け取れる発言)が生じることがあります。そのようなことが複数回あったりすると、相手に攻撃材料を与えることになりますし、裁判官からも「あなたのいうことは矛盾していますね。」と切り捨てられることもあります。
ですので、「言いたいことを好きなだけ言う」ことは危険です。その辺りを依頼者の方に理解していただくことは結構難しいです(これをお読みの皆さんは、なるほどね、と思ってくれたかもしれませんが、当事者というものは、どうしても冷静になれない場合が多いようです)。
尋問が終われば判決です。
これまでの書面でのやり取りと尋問の結果を見て裁判官が判断します。
判決というのは、よく「白黒付ける」と言われます。確かに、一般には白黒付ける場合が多いです。もっとも、「過失相殺」といって、例えば、被告は確かに悪いけど、原告にも不注意な点があったよね、と言って、主張の一部が減額されることも度々あります。そういう意味では、必ずしもオールorナッシングではありません(訴訟の形態によってはオールorナッシングの判決しかない場合もあります。)。
以上、判決までの大まかな流れを述べましたが、途中で和解に至る場合もあります。和解というのは、どこかで妥協点を見つけて合意することです。タイミングを見計らって裁判官が進めることが多いです。
裁判官から和解の提案があった場合、弁護士はもちろん、依頼者と和解するかどうかについて相談することになります。和解に応じる方も結構おられます。もちろん、裁判官から提案があったといっても、従う義務はありません。「白黒はっきりさせたいので最後までやりましょう」となることもあります。
ただし、ここで注意が必要なのは、先に述べたように、判決になっても、一部分だけが認められるにすぎない場合もあります。もちろん敗訴判決もあり得ます。せっかく判決をもらうことに決めても、「スッキリしない判決だな」とモヤモヤ感が残ることがあります。
私たちの仕事は、勝利に向けて全力を尽くすべきことは当然ですが、以上に述べたようなことを説明することも重要な仕事の一つです。
しかし、ほとんどの方が訴訟など慣れていないので(普通そうでしょう)、説明してわかってもらうことは容易ではありません。
毎回、上手く伝えるためにどうすればいいか工夫しながら悩みながらやっています。