昨年の12月,サッカーの試合中に骨折した男性が接触した相手に対して治療費や慰謝料を請求した訴訟の判決が東京地裁で言い渡されました。
事案は,男性が右太ももでボールをトラップしてから左脚でボールを蹴ろうとしたところに,相手選手が左足を上げてシューズの裏で男性の左脚のすね辺りを蹴りつけてしまい,男性が左脚のすねを骨折したというものです。
判決は怪我をさせた選手に治療費や慰謝料約250万円の支払を命じました。
この判決については,「サッカーで怪我は当然起きることだから判決は厳しすぎる。」という声も多いようです。
さて,スポーツでの怪我について法律はどのように位置づけているのでしょうか。
実はスポーツの怪我といっても特別の法律はありません。
民法という一般的な法律の「不法行為」が成立するか否かで判断することになります(民法709条)。
不法行為というのは,交通事故もそうですし,誤って,他人の物を壊してしまったとか,誤って他人に損害を与えた場合に広く使われる法律構成です。
どういう場合に不法行為が成立するかというと,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」場合です。
まず,行為が違法であること(「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」)が必要です。
たとえば,ボクシングなどでは,顔が切れたり,鼻が折れたり,脳振盪を起こしたりします。
しかし,ボクシングは,「殴り合う競技」であり,選手は当然殴られることを承知の上でやっています。
ですから,ボクシングで相手を殴ることに違法性はありません。
他のスポーツも同様で,「通常その競技で予定されている行為」は違法ではありません。
サッカーで足を引っかけてしまうことは幾らでもあることであり,反則をとられたとしても違法ではありません。
足を引っかけられただけで裁判していたら誰もサッカーをしなくなるでしょう。
問題はその競技で「通常予定されている行為」かどうかです。
仮に,野球の試合で打者がバットでピッチャー殴ればどうでしょうか。
野球の競技として通常予定されている行為ではありませんね。
これは違法な行為です。
では,今回のケースはどうでしょうか。
サッカーなので足と足が当たるのは当たり前,といえるかも知れません。
しかし,今回の事案では,男性はすねを骨折したのですが,同時にすねを守るための「すねあて」(レガース)も割れていました。これらの事実から相当衝撃が強かったことが推測されます。
また,サッカーでは,シューズの裏を相手に向ける行為は危険な行為として禁止されています(サッカーのルールでは,接触しなくてもシューズの裏を相手に向けるだけでファウルになります)。
判決を読むことはできていませんが,裁判所は,上記のようなことを考慮して,今回の行為については,極めて危険な行為であり「サッカー競技として通常予定されていない行為」と判断して違法性を認定したのではないでしょうか。