(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hは不動産、預貯金のほかに現金6000万円を保有していました。
Hの法定相続人はHの子AとBでした。
H死亡後、AはHが残した現金6000万円を「H遺産管理人A」という名義で銀行に預金しました。
BはAに対し、上記預金のうち法定相続分に応じた金銭(3000万円)の支払いを求めて提訴しました。
裁判所:最高裁判所第二小法廷
裁判年月日:平成4年4月10日
従前より、最高裁判所の判例においては「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」とされています(最高裁昭和29年4月8日判決)。
本件では、相続財産の中に金銭債権ではなく「現金」という動産が存在する場合に、遺産分割の手続きを経ることなく、各共同相続人が相続分に応じた金額を請求できるのかが問題となりました。
最高裁は「相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできないと解するのが相当である。」と述べて、現金は、金銭債権とは異なり、相続開始時に当然に分割されるのではなく、遺産分割の手続きによらなければ取得することができないとの判断を示しました。