(事案を簡略化して説明します。)
被相続人HはP材木店を経営しており、遺産のうちの本件不動産を材木置場として使用していたようです。
Hは自筆証書遺言を残して死亡しました。遺言書には、本件不動産について「本件不動産はA(Hの妻)に遺贈する。本件不動産は、P材木店が経営中は置場として必要につき一応そのままにして、A死亡後は、B,C,D(Hの兄弟)の分割所有とする。」という旨の記載がありました(以下「本件条項」)。
H死亡後、Aは本件条項に基づいて、本件不動産につき自己単独名義の所有権移転登記を行いました。
これに対して、B,C,Dは、本件条項はBらに対する停止条件付遺贈であるとして、その確認及びA単独名義の登記の抹消登記手続を求めて提訴しました。
裁判所:最高裁判所第二小法廷
裁判年月日:昭和58年3月18日
一審及び二審は、本件条項のうち、「Aに遺贈する」との部分を重視し、かつ、A死亡後についての記載は「後継ぎ遺贈」として無効と判断し、Bらの請求を退けました。
一般に「後継ぎ遺贈」は無効と解されており、一見すると、一審及び二審の判断は妥当であるようにも思えます。
しかし、本件条項のうち、「一応そのまま」などの記載からは、「Aに遺贈する」のは一時的で便宜上のことであり、最終的にB,C,Dに所有させることがHの真意であるとの解釈もありうるところです。
このように遺言の解釈が困難な場合に、どのようにして解釈を行うかが本件の争点でした。
破棄差戻し。
最高裁は「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言書の真意を探求すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」との規範を定立したうえで、本件への当てはめとして「右遺言書の記載によれば、Hの真意をするところは、第1次遺贈の条項はAに対する単独遺贈であって、第2遺贈の条項はHの単なる希望を述べたにすぎないと解する余地もないではないが、本件遺言書によるAに対する遺贈につき遺贈の目的の一部である本件不動産の所有権をBらに対して移転すべき債務をAに負担させた負担付遺贈であると解するか、(中略)更には、Aは遺贈された本件不動産の処分を禁止され実質上は本件不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず、Bらに対するAの死亡を不確定期限とする遺贈であると解するのか、の各余地も十分にありうる」と述べ、原審での審理は、本件遺言書の全記載の検討や本件遺言書作成当時の事情の検討などが不十分であったと指摘しました。