今年の7月,富山市に本社を置く総合機械メーカーの会長が「富山生まれの人は閉鎖的な考え方が強いから採らない」と発言したことが物議を醸しました。
この発言に対しては,「出身地による差別だ」「富山県民を侮辱している」などの批判が相次ぎました。
このような発言をすること,あるいは,実際に採用に当たって富山県民を採用しないという基準を作ったりすることは法律的にどう評価されるのでしょうか。
実は,法律的には,企業は,どのような人を雇うかについて原則として自由に選択することができます。
最高裁は,有名な「三菱樹脂事件」(昭和48年12月12日判決)において,企業が誰を採用するかについては,「法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由に決定することができる」と述べています。
もっとも,この最高裁が述べるように,「法律による特別の制限」があれば,例外的に企業の採用の自由も制限を受けることになります。
たとえば,性別を理由とする採用差別は「男女雇用機会均等法」で禁止されています(男女雇用機会均等法5条)。
また,採用時に年齢制限をつけることは,「雇用対策法」によって原則として禁止されています(雇用対策法10条)。
しかし,出身地や本籍地などを採用基準にすることはどの法律でも禁止されていません。
この点,厚生労働省は,民間企業が従業員を採用する場合の指針として,「公正な採用選考の基本」という指針を出しており,この指針の中では,出生地や本籍地を採用の基準にするようなことはやめるようにと書かれています。
しかし,あくまで「指針」であり「助言」のようなものに過ぎず,法的拘束力はありません。
どうしてこのような結論になるかというと,「法の下の平等」などの憲法規範は直接的には,国家と国民との関係を規律するものだからです。
民間対民間の関係には,直接,憲法の規定は適用されないのです。
この話は難しくなるので,またの機会に書いてみたいと思います。