(事案を簡略化して説明します。)
遺言者Hには妻Aと長女Bがいましたが、昭和42年頃よりCと交際を始め、昭和44年頃よりCと半同棲生活を送りました。なお、昭和40年頃よりHはAと別居していました。
Hは、昭和49年8月にA、B、Cに対しそれぞれ遺産の3分の1を贈与する旨の遺言書(本件遺言)を作成しました。
昭和50年10月にHが死亡しましたが、Hの死後、AとBがCを相手方として、本件遺言が民法90条に違反して無効であると主張して遺言無効の確認を求めました。
裁判所:最高最大一小法廷
裁判年月日:昭和61年11月20日
民法90条の規定は身分行為にも適用されるとされており、戦前の判例には、死亡するまで妾として共同生活をすることを条件とした金銭の遺贈は民法90条に反し無効であるとした判例(大審院昭和18年3月19日判決)があります。
本件の事実関係のもとにおいて、本件遺言が公序良俗に反して無効となるか否かが本件の争点です。
最高裁は「原審が適法に確定した、(1)亡Hは妻であるAがいたにもかかわらず、Cと遅くとも昭和44年ごろから死亡時まで約7年間いわば半同棲のような形で不倫な関係を継続したものであるが、この間昭和46年1月頃一時関係を清算しようとする動きがあったものの、間もなく両者の関係は復活し、その後も継続して交際した、(2)Cとの関係は早期の時点で亡Hの家族に公然となっており、他方亡HとA間の夫婦関係は昭和40年ころからすでに別々に生活する等その交流は希薄となり、夫婦としての実態はある程度喪失していた、(3)本件遺言は、死亡約1年2か月前に作成されたが、遺言の作成前後において両者の親密度が特段増減したという事情もない、(4)本件遺言の内容は、妻であるA、子であるB及びCに全遺産の3分の1ずつを遺贈するものであり、当時の民法上の妻の法定相続分は3分の1であり、Bがすでに嫁いで高校の講師等をしているなど原判示の事実関係のもとにおいては、本件遺言は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく、もっぱら生計を亡Hに頼っていたCの生活を保全するためにされたものというべきであり、また、右遺言の内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものとはいえないとして、本件遺言が民法90条に違反し無効であると解すべきではないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」と述べて、本件の事実関係からすれば公序良俗に反しないとの判断を示しました。