(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hは甲不動産(評価額7000万円)と乙不動産(評価額4000万円)を所有していました。また、預貯金1000万円を有していました。
平成3年5月19日、Hは長女Aとの間で、乙不動産に関する死因贈与契約を締結しました。
平成3年5月28日、Hは「長男Bに甲不動産を相続させる。二女Cに預貯金を相続させる。」旨の遺言を作成しました。
平成7年7月31日、Hが死亡しました。Hの法定相続人は、長女A、長男B及び二女Cの3人でした。
CはAとBに対して遺留分減殺請求を行いました。
裁判所:東京高等裁判所
裁判年月日:平成12年3月8日
旧民法1033条(現1047条)によれば、遺贈と生前贈与がある場合、遺贈からまず減殺請求を行うこととなります。
他方、民法554条では、死因贈与は「遺贈に関する規定を準用する」と規定されています。
そこで、死因贈与と遺贈がなされている場合、死因贈与を贈与として扱い、遺贈を先に減殺するか、あるいは遺贈として扱い、死因贈与と遺贈を同時に減殺するか、が問題となります。
東京高裁は、「死因贈与も、生前贈与と同じく契約締結によって成立するものであるという点では、贈与としての性質を有していることは否定すべくもないのであるから、死因贈与は、遺贈と同様に取り扱うというよりはむしろ贈与として取り扱うのが相当であり、ただ民法1033条及び1035条の趣旨に鑑み、通常の生前贈与よりも遺贈に近い贈与として、遺贈に次いで、生前贈与より先に減殺の対象とすべきものと解するのが相当である。」と述べて、遺贈を先に減殺すべきとの見解を示しました。
そして、本件においては、Cの遺留分の額は(7000万円+4000万円+1000万円)÷6=2000万円であり、Cの遺留分侵害額は2000万円-1000万円=1000万円であるから、Bに対する遺留分減殺請求によって侵害された遺留分全額を回復することができることになり、Aに対する遺留分減殺請求をする必要はない、と判断しました。
なお、本判決では、「相続させる」遺言は遺贈と同様に扱うべきであることについても肯定しています。