(事案を簡略化して説明します。)
遺言者Hは死亡の3か月前に公正証書遺言をしました(本件遺言)。
Hの法定相続人はAのみでした。
本件遺言の内容は、全財産をB(Hの遠い親戚)に包括遺贈する、C(Hの甥)を遺言執行者に指定する、というものでした。
本件遺言にはCとD(Cの妻)が証人として立ち会いました。
Cは盲目で、自分の氏名を書くことができるが、文字を見ることはできませんでした。
H死亡後、Aは、本件遺言は無効だと主張しました。
裁判所:最高裁判所第一小法廷
裁判年月日:昭和55年12月4日
民法969条によると、公正証書遺言をする場合には証人2名以上の立会が必要とされています。
そして、民法974条では、遺言の証人になることができない人(欠格事由)が列挙されていますが、盲人は欠格者として列挙されていません。
したがって、形式的にはCは欠格者ではありませんが、事実上の欠格者と考えるべきかどうかが、本件の争点です。
最高裁は「公正証書による遺言について証人の立会を必要とすると定められている所以のものは、右証人をして遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで自己の意思に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をさせるほか、公証人が民法969条3号に掲げられている方式を履践するため筆記した遺言者の口述を読み聞かせるのを聞いて筆記の正確なことの確認をさせたうえこれを承認させることによって遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにある。」と、公正証書遺言において証人が必要とされる趣旨について述べた上で、「一般に、視力に障害があるに過ぎない盲人が遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで自らの真意に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をする能力まで欠いているということのできないことは明らかである。また、公証人による筆記の正確なことの承認は、遺言者の口授したところと公証人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによってすれば足りる」と判示して、本件遺言は有効だと結論付けました。