(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hは、作業中の事故により首から下が全身麻痺となりました。
厚生労働省の委託により介護付き入所施設を運営する一般財団法人Aは、Hが施設に入所してから死亡するまでの6年間、Hの介助を行いました。
Hが死亡した後、Aは特別縁故者として財産の分与を申し立てました。
一審は、当該施設の入居費用と施設のサービスは、特段の事情のない限り対価関係にあるとして、特別の縁故があったとはいえないとして分与申立を却下しました。
裁判所:高松高等裁判所
裁判年月日:平成26年9月5日
被相続人が生前に入所し療養看護を受けた老人ホームや介護施設の運営主体は特別縁故者として相続財産の分与を求めることができるか、が本件の争点です。
高松高裁は、「被相続人は、前記のとおり首から下の全身に麻痺がある状態であり、本件施設においては、被相続人が前記のとおり入所してから後記のとおり死亡するまで約6年にわたり、ほぼ毎日、被相続人に対して、日常生活においては、食事や洗顔等については自助具を使った半介助を、移動や更衣、排尿・排便などについては、摘便を含む、全面的な介助を行ったほか、被相続人が病院に通院する際には補助は介助に当たり、また、時には被相続人を近郊のショッピングセンターに買い物に連れ出したり施設内で行われるレクリエーションに参加させたりもした。被相続人は、介助に当たる職員に身体のマッサージなど独自の介護を求めたり、無理な注文をしたり、意のままにならないと暴言を吐いたりしたことが多々あったが、本件施設の職員らは、献身的に粘り強く被相続人の介護又は介助に当たり、これにより被相続人もほぼ満足できる生活状況であった。」との事実認定をした上で、
「これらの事情によれば、被相続人は、本件施設において献身的な介護を受け、これによりほぼ満足できる生活状況を維持することができていたものと認められるのであるから、本件施設を運営する抗告人(A)は、被相続人の療養看護に努めたものとして、民法958条の3(現行民法958条の2)第1項にいう『被相続人と特別の縁故があった者』に当たると認めるのが相当である。」として、Aは特別縁故者に当たると認定しました。
そして、一審が、施設の入居費用と施設のサービスは対価関係にあるとして点については、
「なお、被相続人が本件施設への入居中に月額16万円又は25万8000円の施設利用料を支払ったものと認められるものの、これは、先に認定したとおり厚生労働省が入居者の年間収入額等に応じて定めたものであって、実際の介護サービス等の程度や内容等を反映して定められた報酬であるとは認められない。また、仮に結果的に施設利用料が介護サービス等に対する報酬として正当な額であり、両者間に対価関係が認められるとしても、それだけで前記の特別縁故者に当たらないと判断するのは相当ではない。本件においては、先にみたように被相続人が長年にわたって本件施設で手厚い看護を受けてきたなどの事情が認められるのであるから、抗告人(A)が被相続人の特別縁故者に当たるものと認めるのが相当である。」との見解を述べました。
結論として、高松高裁は、Hの残した預貯金約1890万円全てをAに分与することを認めました。