(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hは生前、自己が所有する建物(本件建物)を会社Aに賃貸していました。
Hは、昭和49年1月22日に長男Bに本件建物を遺贈する旨の内容の公正証書遺言(本件遺言1)を作成しました。
その後、Hは昭和49年3月5日、従前の遺言を取り消す旨の内容の自筆証書遺言(本件遺言2)を作成しました。
本件遺言2は、「私は今まで遺言書を書いた記憶はないが、もしつくった遺言書があるとすれば、それらの遺言書は全部取消す」という文面でしたが、「それらの」の前に「そ」と書いてこれを×印で抹消し、次の「遺言書」の文字の前にカタカナで「ユ」と書いて行を改めて「遺言書は全部」と続け、その次に「取消消取」と記載した部分に直線を数本引いて抹消していました。
上記「そ」「ユ」「取消消取」の3箇所には押印されていましたが、加除変更の場所を指示し変更した旨を附記して署名してはいませんでした。
Hの死後、Bは本件遺言1に基づいて本件建物の所有権移転登記を経た上で、Aに対して賃料を請求する訴訟を提起しました。
裁判所:最高裁第二小法廷
裁判年月日:昭和56年12月18日
本件の争点は、ⅰ)民法968条2項の規定は遺言書を作成する過程での訂正についても適用があるか、ⅱ)民法968条2項の規定は明らかな誤記の訂正の場合も適用があるか、の2点です。
最高裁は、
争点ⅰ)について、「自筆証書による遺言の作成過程における加除その他の変更についても、民法968条2項所定の方式を遵守すべきことは所論のとおりである。」と述べて肯定し、
争点ⅱ)については、「自筆証書中の証書の記載自体から見て明らかな誤記の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があっても遺言者の意思を確認するについて支障がないものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。」と述べて、本件では、方式違背があっても本件遺言2を無効にすべきではないとしました。