(事案を簡略化して説明します。)
Hは、昭和35年、長男Aとの間で死因贈与契約を締結しました。
その内容は、「Aは毎月3000円とボーナスの半額をHに贈与し、Aがこれを履行した場合は、Hは自己の遺産全部をHの死亡と同時にAに贈与する」というものでした。
Hは昭和54年に死亡しましたが、AはHが死亡する直前まで死因贈与契約の内容を履行しました。
ところが、Hは、昭和49年に、Hの財産の一部を二男Bと三男Cに遺贈する、という内容の自筆証書遺言を作成していました。
裁判所:最高裁判所第二小法廷
裁判年月日:昭和57年4月30日
民法554条は、死因贈与については遺贈に関する規定を準用するとしています。
そこで、本件では、負担付死因贈与契約において、負担が既に履行された場合に、遺言の取消し(現行法では「撤回」)に関する民法1022条、1023条が準用されるかどうかが争われました。
最高裁は「負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては」「右贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、右契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右負担の履行状況にもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、遺言の取消に関する民法1022条、1023条の各規定を準用するのは相当でない」と述べて、原判決を破棄し、差し戻しました。