先月,ワンピースなどのマンガの内容を無断配信していた,いわゆる「ネタバレサイト」の運営者らが逮捕されたとの報道がありました。
全国で初めてだとのことです。
報道によると,発売日より早く販売される「早売り店」から雑誌を入手してインターネットにアップしていたそうです。
逮捕容疑は,著作権法違反です。
著作権というのは,音楽や小説などの作品の作者が自分の著作物を独占的に利用できる権利です。
今回の件は,無断でインターネットに作品を上げたのですから,著作権法違反は明らかでしょう。
著作権法違反は犯罪であり,今回の件では,著作権の侵害と出版権の侵害に該当するので,10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金が科せられます。
報道によると,容疑者はアフィリエイト広告で3億円近くの収入を得ていたとされます。
では,作家や出版社はこのお金を取り返すことができるのでしょうか。
著作権法違反の場合,刑事罰もありますし,民事上の損害賠償義務も発生します。
問題は,損害額が幾らかということです。
法律の世界の基本として,「損害を被った」と言って訴える人が幾らの損害を被ったかを証明する必要があります。
著作権法違反の場合,損害額を証明することは容易ではありません。
たとえば,何人の人がネタバレサイトを見たのか,サイトを見た人は本を買わなかったのか,サイトを見た人はサイトも見たけど本も買っているかもしれない,など,「サイトによる損害額」を証明することは極めて困難です。
このように著作権法違反の場合,損害額を証明することが極めて困難なので,著作権法は損害額を証明しやすいような工夫をしています。
まず,DVDの海賊版などを作成して販売した場合,販売した数に著作権者の一つ当たりの利益をかけた金額を損害額と推定するという規定があります(著作権法114条1項)。
たとえば,DVDの海賊版を無断で作成して1万本販売したとします。
そのDVDの1本当たりの正規の利益が1000円だとすると,1万本×1000円=1000万円となり,1000万円が損害額だと推定されるのです。
海賊版がなければ正規のDVDが1万本売れるはずだったのに売れなかったと考えるわけです。
また,著作権を侵害した人が儲けた利益を損害額と推定することもできます(同条2項)。
こちらは,悪いことをして儲けた分をはき出させようという考え方であると思われます。
もう一つありますが,省略します(同条3項)。
それでは,今回の件で,著作権法によって損害額を推定できるでしょうか。
今回の件はかなり微妙だと思います。
なぜなら,アフィリエイトによる広告収入だからです。
先ほどの海賊版の話は分かりやすいですが,今回の件は,マンガを丸々掲載して海賊版を販売して収入を得たわけではありません。
著作権法は,このようなケースを予定していないのではないかという疑問があります。
法律が当初予定していたことと違うことが起きた場合に,どこまでその法律を適用することができるかという非常に難しい問題です。