こんにちは。宝塚花のみち法律事務所の弁護士の木野達夫です。
今回は名誉毀損と侮辱の違いについて説明したいと思います。
名誉毀損と侮辱はよく似た概念ですが、法律的には明確な違いがあります。
名誉毀損も侮辱も刑事事件と民事事件のどちらでも使われますが、今回は刑事事件を念頭において書きたいと思います。
刑事事件ですので、「名誉毀損罪」と「侮辱罪」の違いということになります。
「名誉毀損罪」は刑法230条に規定されていて、刑罰は最大で3年間の懲役です。
これに対して、「侮辱罪」は刑法231条に規定されていて、刑罰は最大で1年間の懲役です。
このように刑罰の重さがかなり違います。
しかも、侮辱罪の刑罰が最大懲役1年になったのは昨年の7月からです。
それまでは懲役刑さえありませんでした。
インターネットやSNSでの誹謗中傷による被害が深刻化してきたことから法律が改正されて厳罰化されました。
厳罰化されたといっても、まだ名誉毀損罪と侮辱罪の刑罰の重さはかなり違います。
では、この違いはどういうところから来ているのでしょうか。
「名誉毀損罪」が成立するのは「公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した」場合です。
「公然」というのは、「不特定又は多数の者が知ることのできる状態」を指します。
「事実を摘示して」というのは「事実を示して」という意味です。
そして、ここでいう「事実」が重要なポイントです。「事実」とは、人の社会的評価を低下させるような具体的な事実、エピソードのことです。
たとえば、「○○は△△と不倫しているらしいよ」とか、「○○は前の勤務先で横領してクビになったらしいよ」などとその人の社会的評価が下がるような具体的なエピソードを示すと名誉毀損罪になります。
(例外的に名誉毀損罪が成立しない場合もありますが、今回は省略します。)
これに対して、「侮辱罪」が成立するのは、「公然と人を侮辱した」場合です。
「公然」は名誉毀損罪の場合と同じです。
「侮辱」とは、他人の能力や身分などについて軽蔑の意味を持つ価値判断を表現することです。
「バカ」とか「アホ」とか「無能」などの表現がこれにあたります。
名誉毀損罪のほうが侮辱罪より罪が重いのは、具体的なエピソードがあるほうがインパクトが強く、より社会的地位を低下させやすいからです。
しかし、実際には、区別が難しい場合もあります。
単に「仕事ができない」というだけでは評価にすぎないので、「事実」を示したとはいえませんが、「○○は、毎日遅刻をして上司に叱られている」となると、事実を示しているので、名誉毀損罪になる可能性があります。
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宝塚花のみち法律事務所 弁護士木野達夫