今回は「因果関係」について書いてみます。
因果関係というのは、日常用語としてもしばしば使われます。「因果応報」とか、悪い行いをしていると「バチが当たる」などといいますが、こういうのは非科学的で法律的な考えにはなじみません。
法律的な用語としての因果関係は、まず、「AなければBなし」という条件関係(自然的因果関係ともいいます)が必要です。これは現代の科学で説明できる現象として、「Aという行為がなかったならばBという結果は生じなかった」という関係です。
したがって、「丑の刻参りをしたら死亡した」というのは、現代科学で証明できないため、因果関係はありません。
「脇見運転をしたら前の車に追突して前の車に乗車している人に怪我を負わせた」というのは、条件関係があります。
では、この例で、「前の車に乗っていた人が、これから大事な商談に向かう途中であったが、事故のため商談に遅れて数億円の売上を逃した」という場合、「脇見運転」と「数億円の損害」との間には、因果関係はあるでしょうか。
この場合、条件関係(自然的因果関係)はあります。しかし、脇見運転をした人にこの数億円の損害を賠償させることは妥当でしょうか?
運転していた人は、まさかそんな損害が生じるなどとは通常予想できません。これを負担させるのは余りにも酷だと思われます。
そこで、通常予想できないことまで賠償させるのは酷であるとの考え方から、「相当因果関係」という考え方が出てきました。
「相当因果関係」とは、条件関係(自然的因果関係)が認められるもののうち、損害を負担させる範囲を常識的な範囲に限定するための理論です。
このように、法律的な意味での「因果関係」というのは、科学的な因果関係に常識的な修正を施したものなのです。