ニュースになった地面師による詐欺事件について解説したいと思います。
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先月(令和7年6月)、ドラマのようなニュースがありました。地面師がおよそ14億5000万円をだまし取ったとして詐欺等の疑いで男2人が逮捕されました。逮捕されたのは福田裕容疑者と粂陵平容疑者の2人です。
今のところ、詐欺の全貌は明らかにされていませんが、現時点(令和7年7月4日現在)の報道で分かる範囲で、詐欺の手口を説明したいと思います。
事件の概要は、A社という会社が大阪の繁華街(ミナミ)に3箇所のビルとその敷地を所有していたのですが、地面師グループの1人(粂容疑者)がA社の代表取締役になりすまして、3箇所のビルと土地を売却して金銭をだまし取ったというものです。
最近話題となった地面師を描いたドラマと異なる点は、ドラマでは、個人が所有している不動産を別人が本人になりすましたのですが、今回の事件では、法人登記を不正に書き換えて、A社の本来の代表取締役をB氏から粂容疑者に変更した上で、粂容疑者が契約を締結しているのです。
ですから、契約を締結する場面では、粂容疑者は本物の自分の身分証明書を示せば粂容疑者本人であることを証明できますので、誰かに「なりすます」必要がありません。
そういう意味では、ドラマよりも手口は巧妙であるといえます。
では、どうして、このようなことが可能だったのでしょうか。
警察の説明等によりますと、まず、地面師グループは、なんらかの方法でB氏の住民票を不正に取得しました。
次に、B氏の住民票を基にB氏の運転免許証を偽造しました。B氏の運転免許証を偽造するためには顔写真が必要ですので、そのために70代の女性が関与した疑いが持たれています(B氏は女性です)。
そして、偽造の運転免許証ができると、次は、それを使って、B氏の登録印鑑を変更して区役所で別の実印を登録しました。その結果、区役所から正式に印鑑登録証明書を発行してもらうことができます。
この印鑑登録証明書は偽造といえば偽造なんですが、区役所が正式に発行したものですので、偽造が困難な特殊な用紙を使用していますし、区長の本物の押印もあります。偽造を見抜くことは不可能といえるでしょう。
そして、地面師グループは、偽造した印鑑登録証明書を使用して、法務局でB氏の代表取締役辞任の登記を行い、粂容疑者が代表取締役に選任されたという嘘の株主総会の議事録を作成して、法人登記簿に、「代表取締役」として粂容疑者が就任したことを記載させました。
ここまで来ると、書類上は完全に粂容疑者がA社の代表取締役ということになり、粂容疑者はA社の代表者として不動産を売却することが可能になる、というわけです。
買主が嘘を見抜くのは極めて困難だったと思います。
なお、手口の説明の冒頭部分で「なんらかの方法でB氏の住民票を不正に取得」と書きましたが、この部分はかなり謎に包まれています。
一部報道では、容疑者らがB氏に金銭を貸し付けたとする嘘の借用書を作成して、これを区役所に示して住民票を入手したという話が出ていますが、そんなに簡単に自治体が住民票を交付するとは思えないのです。
いずれ全容が解明されることになると思いますが、今後、このような犯罪が起きないように、しっかりとした対策を構築することが必要でしょう。