平成30年3月1日付で,定年後の継続雇用に関する最高裁の決定が出ました。
女性の従業員が60歳で定年を迎えるにあたって,定年後の継続雇用契約に関して,会社からそれまでの賃金の約75%カットの案を提示されたという事案です。
一審の福岡地裁小倉支部判決は,「前に比べて仕事が減るので不合理ではない」との会社の主張を支持しました。
これに対し,二審の福岡高裁判決は,「高年齢者雇用安定法の趣旨に反する」といって,会社に対して慰謝料100万円の支払いを命じる逆転判決となりました。
「高年齢者雇用安定法」とはどのような法律なのでしょうか。
同法は第8条で定年制について規定しています。その規程によると,「企業が定年制を採用するのであれば定年は60歳以上にしなさい」と決められています。
そもそも,なぜ定年という制度があるのでしょうか。
労働関係法令により,いわゆる「正社員」の地位は厚く保護されており,一度採用すると簡単には解雇できないようになっています。
つまり,定年制がないと,従業員が自分から「辞めます」と言わない限り,いつまで経っても会社は従業員を辞めさせられないということになってしまいます。
企業としては,80歳や90歳まで働かれては困るのが本音です。
しかも,年を取ったからといって簡単に給料を減額することもできません(労働契約法9条等参照)。
だから企業は定年制を採用するのです。
現在は,ほとんどの企業が60歳定年制を採用しています。
ところで,以前は,年金が60歳からもらえたので60歳定年制でもよかったのですが,年金の支給開始が原則65歳からになりました
そのため,60歳から65歳までの人の生活保障を図るため,高年齢者雇用安定法が改正され,企業は,①定年制を廃止する,②定年を65歳以上にする,③希望者全員を継続雇用する制度を導入する,のうちのいずれかを採用することが義務づけられました。
このうち,ほとんどの企業が③の「継続雇用制度」を導入しています。
「継続雇用制度」では,仕事が減少するなら給料を下げてもよいとされています。しかし,法律上,どの程度の減少まで許されるかについては規定がありません。
そのため,同制度で給料を減らされたということで,多くの裁判が起きています。
今回の裁判もそのうちの1つです。
今回の裁判では賃金を約75%もカットするということで,「60歳から65歳までの人の生活保障を図る」という「高年齢者雇用安定法」の趣旨に反すると判断されたわけです。
今回,最高裁の判断が出ましたが,最高裁も「何%のカットまでならオーケー」とは言っていませんので,今後も同様の裁判が続くと思われます。
もっとも,今回の判決の確定で,定年後の賃金を大幅にカットしている企業は見直しを迫られるでしょう。