以前のコラムで遺贈は寄与分に優先すると書きましたが(「なぜ遺贈は寄与分に優先するのか」)、今回は寄与分と遺留分の優先関係の問題です。
特定の相続人の寄与分が大きくて、他の相続人の遺産の取得額が遺留分を下回ってしまうことは許されるのでしょうか。
たとえば、父親(被相続人)が死亡し、相続人が長男と長女だとします。遺産総額が3000万円だとすると、長男と長女の各遺留分は3000万円×1/2×1/2=750万円です。
この例で、長男が寄与分を主張した場合に、長男の寄与分を2000万円と定めることはできるでしょうか。
もし、長男の寄与分を2000万円と定めれば、長男と長女の具体的相続分は以下のとおりです。
3000万円(相続財産)-2000万円(寄与分)=1000万円(みなし相続財産)
1000万円÷2=500万円(一応の相続分)
具体的相続分は、
長男:500万円+2000万円=2500万円
長女:500万円
この結果は長女の遺留分(750万円)を侵害していることになります。
上記の例のように、他の相続人(上記の例の長女)の遺留分を侵害する結果となる寄与分の額を定めることはできるのでしょうか。
この点、法文上、寄与分の額に上限が定められていないことから、他の相続人の遺留分を侵害する寄与分を定めることも可能とされています。
しかしながら、裁判例(東京高裁平成3年12月24日決定)では「確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるにあたって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。(中略)寄与分を定めるにあたっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」と判示しており、安易に遺留分を侵害する内容の寄与分を定めるべきではないとしています。
他の相続人の遺留分を侵害する結果となる寄与分を定めることは、法文上の制限がないため可能です。
もっとも、裁判例においては、他の相続人の遺留分を侵害するかどうかについて考慮しなければならないとされています。