先月,コロナ禍で対面授業を行わない大学に対して,学費の一部返還などを求めて,学生が大学を提訴する(予定である)というニュースがありました。
その学生は,令和2年4月に私立大学に入学したのですが,昨年度一年間,所属する経営学部で受けた授業はオンラインだけだったとのことです。
大学と学生の法律関係は一般に「在学契約」と呼ばれます。一般的にはそう呼ばれていますが,法律上には「在学契約」という名前の契約は存在しません。
例えば,不動産を借りるときは「賃貸借契約書」を作成します。不動産を購入する場合は,「不動産売買契約書」を作成します。
しかし,大学に入るときは「入学誓約書」などには署名するのですが,「在学契約書」を作成することはありません。
通常,契約の内容は契約書を読めばだいたい分かります。
しかし,在学契約にはそもそも契約書がありません。
契約書がない場合,どうやって法律関係を考えるかというと,過去の裁判例を参考にします。
在学契約で参考になる最高裁判決があります。
最高裁判決が述べていることをかみ砕いていうと,「在学契約」とは,大学は学生に対して講義を行ったり施設を利用させる義務を負い,学生はそれに対する対価(つまりお金)を払う契約である,とのことです。
これだけでは当然のことを言っているだけですが,続けて,こう述べています。
「教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されており,取引法の原理にはなじまない側面も少なからず有している。」
ここが重要です。
「取引法」というのは,電化製品を販売するとか,部品を製作して納品するとか,一般的にイメージする「取引」を行う場合に適用される法律のことです。
最高裁は,「在学契約」は「取引法」の原理になじまない,といっているわけです。
一例を挙げると,平成26年3月24日の大阪地裁判決があります。
この裁判例は,学生募集の際に大学が説明した授業の内容が,入学後,一部変更されたことを理由に,学生が大学に損害賠償等を求めた事案です。
判決は,教育内容については教育専門家である大学や教員に裁量があるという理由で学生の請求を退けています。
一般の商品売買などであれば,実際に購入したところ「説明されていた機能が付いていない」という場合,契約の解除などが可能です。
しかし,在学契約の場合,「教育の専門性」という要素があり,簡単には「説明と違うから授業料を返せ」とはいえないのです。
そういった在学契約の性質を考えると,対面授業していないことで授業料の一部を返還してもらうことは,なかなか厳しいのではないでしょうか。