今日は、いわゆる紀州のドン・ファン事件の裁判についてお話ししたいと思います。
紀州のドンファンと呼ばれた野崎幸助(のざきこうすけ)さんは、2018年5月に自宅で急性覚醒剤中毒で亡くなられました。
この事件では、配偶者であった女性Sさんが殺人などの罪で起訴されており、先日(11月18日)、検察官が無期懲役を求刑して、裁判員裁判が結審しました。
この裁判のポイントとなる点を少しお話ししたいと思います。
裁判の一番大きなポイントは、直接の物的証拠がないという点です。また、直接犯行を目撃したという証人もいません。
この件で、客観的な状況として分かっていることは、会社社長の死因が急性覚醒剤中毒であるということ、注射の跡などがないことからおそらく野崎さんは覚醒剤を口から摂取したと思われること、Sさんが薬物の密売人から何かを購入したこと、など幾つかあるのですが、いずれも決定的な物的証拠とはいえません。
そのため、捜査機関は、Sさんが事件前に、スマートフォンで「老人 完全犯罪」とか「覚醒剤 過剰摂取」などと検索していたことなどを間接的な証拠として提出しているようです。
その他にも、おそらく、多数の間接的な証拠を提出しているものと思われます。
その中で、特に注目すべきなのは、証人が28人も証言台に立ったということです。これは極めて異例です。これほどの多くの証人が証言台に立つということはめったにありません。
その中にはSさんに接触した薬物の密売人も含まれています。ここのところは非常にややここしく、信頼できる情報が少ないので、明確にはいえませんが、密売人の証言だけでは十分な証拠とはいえないようなのです。
検察官が有罪を立証するために28人も証人を立てたということは、相当丁寧に捜査を行ったといえるのですが、別の見方をすれば、決定的な証人がいないのだろうということが推測されます。
一人ひとりの証言が決定的でないからこそ、多くの人の話をつなぎ合わせて、有罪のストーリーが完成するという形になっているのだと思います。
私は裁判を傍聴したわけではないですし、もちろん、提出されている証拠を見たわけでもありません。報道に現れている証拠はほんの一部分で、実際はとても多くの間接的な証拠が提出されているはずです。検察としては、それらの間接証拠と多数の証人の証言で有罪を証明できるという自信があるのだと思います。
判決は12月12日に言い渡される予定です。