相続の場面でよく使われる「遺産」という言葉は、実は二つの意味で使われることがあります。
一般的には、亡くなった方が残した財産すべてを「遺産」と呼びますが、法律上もまずはこの考え方が基本です。民法では、被相続人が死亡時に持っていた財産上の権利や義務のうち、相続によって承継されるものを広く「遺産」と捉えています。
この意味では、預金や不動産だけでなく、貸金債権(人にお金を貸している権利)や売掛金なども遺産に含まれます。逆に、借金や未払金といったマイナスの財産も遺産に含まれます。
しかし、相続手続の中で最もイメージされやすい「遺産分割」の場面では、遺産のうちすべてが分割の対象となるわけではありません。
たとえば、不動産のように一つのものを物理的に分けることが難しい財産や、株式のように共有状態では処理が複雑になる財産は、遺産分割の対象となります。
一方、貸金債権のように金銭に関する債権は、性質上「可分債権」といわれ、相続が開始すると自動的に法定相続分に応じて相続人に分かれて承継されます。
このため、貸金債権は法律上「遺産ではあるものの、遺産分割の対象ではない」という少し分かりにくい位置づけになります。
結論として、貸金債権は「遺産」に含まれます。亡くなった方が貸していたお金は、相続人がその法定相続分に応じて承継します。
ただし、貸金債権は相続開始と同時に自動的に相続分で分かれるため、遺産分割協議で取り決める必要がありません。
もっとも、実務では、貸金債権を特定の相続人が管理・回収したほうが便利な場合があり、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議書の中で「貸金債権を誰が取得するか」を定めることも少なくありません。
この場合はあくまで実務上の工夫であり、法律上の「遺産分割の対象」というより、「遺産分割に準じて取り扱う」という位置づけになります。
「遺産=遺産分割の対象」と理解していると、「貸金債権は遺産だが遺産分割の対象ではない」という説明は矛盾して聞こえるかもしれません。
しかし、遺産には「広い意味での遺産」と「遺産分割の対象となる遺産」という二つの使われ方があり、この区別を押さえることで誤解を避けることができます。
相続手続きでは、まず“何が相続されるのか(広義の遺産)”を把握し、そのうち“遺産分割が必要な財産はどれか(遺産分割の対象財産)”を整理することが大切です。
「遺産」という言葉は、広い意味では被相続人が遺したすべての財産を指し、その中には貸金債権も含まれます。
しかし、貸金債権は相続開始と同時に法定相続分で当然に分割される可分債権であるため、法律上は遺産分割の対象ではありません。
ただし、実務では管理や回収の便宜から、相続人全員の合意により遺産分割に準じて取り扱うことも多くあります。
このように、「遺産」と「遺産分割の対象となる財産」は必ずしも一致しないため、相続手続きにおいては用語の区別を意識することが重要です。