改正前においては、遺留分減殺請求権を行使した場合、物権的効果が生じるとされていました。
そのため、例えば、遺留分割合4分の1を侵害された相続人が遺留分減殺請求権を行使した場合、遺産の中に不動産が存在すると不動産の共有持分4分の1を取得する効力が生じました。
しかし、このような物権的効果では相続人間で不動産の共有状態が生じるため、紛争が長期化するなどの問題が指摘されていました。
すなわち、共有者同士が円満な関係であれば協力し合って不動産を売却したり賃貸に出したりすることが可能ですが、そうでない場合には不動産を処分するにしても賃貸するにしても手続が円滑に進まず、共有関係を解消するためには共有物分割請求訴訟等を行う必要がありました。
そこで、改正民法では、遺留分を侵害された相続人は遺留分を侵害している相続人等に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることにしました。
つまり、不動産を特定の人に遺贈した場合、遺留分の侵害があったとしてもその不動産はその人の単独所有となります。したがって、共有の問題は生じなくなり、遺留分を侵害された人は侵害した人に対して金銭を請求できるだけになりました。
その結果、不動産を取得した人は単独で不動産を売却することもできるし賃貸に出すことも可能となりました。
上記のとおり、遺留分を侵害された人は侵害した人に対して金銭請求が可能となったのですが、そうすると、遺留分侵害の額によっては一度に支払えない人が出てくることが予想されます。
そこで、法律は「裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。」と規定し、裁判所の判断で支払の期限を延期することが可能になりました。
改正前の法律構成では遺留分減殺請求を行った場合には共有関係が生じてしまい権利関係が複雑になり、紛争が長期化するなどの問題がありました。
平成30年民法改正により、遺留分の減殺による法律効果は単純な金銭請求となり、紛争の長期化が避けられることが期待されます。
また、金銭での支払が必要になったことで一度に支払えないケースがあり得ることから、裁判所が支払の期限を許与する制度が制定されました。