遺留分侵害額請求権は「相続の開始」及び「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったとき」から1年が経過すると時効によって消滅します(民法1048条前段)。
また、上記とは別に、相続開始の時から10年経過すれば権利行使ができなくなります(同条後段)。
上記の期限内に遺留分侵害額請求を行った場合、遺留分侵害額を金銭で支払うよう請求できる「金銭債権」が発生します(民法1046条1項)。
この「金銭債権」の消滅時効期間は、上記の1年又は10年の期間の問題とは別の話であり、民法166条1項1号の規定に従って5年となります。
改正前の民法が適用される事案では、遺留分減殺請求権の行使により物権的な効果が生じ、遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に権利が帰属します。
したがって、遺留分減殺請求の対象が不動産である場合、遺留分権利者は不動産の共有持分権(所有権)を有することになります。
そして、所有権は消滅時効にかからないため、共有持分権(所有権)に基づく登記手続請求権は時効によって消滅することはありません。
遺留分を侵害されている相続人が遺留分を侵害している相続人に対して、遺産分割協議を申し入れたが、遺留分侵害額請求は行わなかったという場合に、遺留分侵害額請求を行ったことになるかという問題があります。
前記のとおり、遺留分侵害額請求には時効がありますので、例えば、相続開始と遺留分を侵害する遺言書の存在を知ってから1年以内に遺産分割協議の申入れは行ったものの、期限内に遺留分侵害額請求を行わなかった場合に、遺留分侵害額請求権が時効消滅するかという問題です。
この点については、改正前の遺留分減額請求に関して興味深い最高裁判例があります。以下の最高裁平成10年6月11日判決です。
「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。」
本判決は、遺産分割協議の申入れは当然に遺留分減殺請求の意思表示を含むものではないという原則を確認した上で、本件の事情(全財産が相続人の一部の者に遺贈されており、理論上遺産分割の余地はない)に鑑みれば、遺産分割協議の申入れは「法律的にみれば遺留分減殺請求の意思表示とみるしかない」というロジックを使って結論を導いています。
したがって、本判決の結論を一般化することは困難であり、単純に「遺産分割協議の申入れには遺留分減殺請求(遺留分侵害額請求)の意思表示が含まれている」と理解することは危険です。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年経過するか相続開始の時から10年経過すると権利が消滅します。
(改正後の)遺留分侵害額請求を行った場合には金銭債権が発生し、当該金銭債権の時効は5年です。
(改正前の)遺留分減殺請求を行った場合、減殺請求の対象が不動産の場合、登記手続請求権は時効にかかりません。
遺留分を侵害されている相続人が遺留分を侵害している相続人に対して、遺留分減殺請求を行わず、遺産分割協議を申し入れた場合に、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれているとした最高裁判決がありますが、一般化して理解することは危険です。