(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hには子Aと子Bがいました。Aは、(おそらく私立と思われる)中学校に入学し、10年間下宿生活を送り大学を卒業しました。他方、Bは、高等女学校を卒業した後、師範学校(教員を養成する学校)に進学して卒業しました。
H死亡後、Bは、Aの学費はBよりも多額であり特別受益に該当すると主張しました。
裁判所:大阪高等裁判所
裁判年月日:平成19年12月6日
民法903条1項によれば、相続人が被相続人から「生計の資本として」贈与を受けた場合は、特別受益として遺産分割の際にその額を持ち戻すこととされています。
「生計の資本」に該当するか否かについては、一般的に、婚姻時の持参金や家の建築資金などは該当するとされていますが、学費については特別に多額なものでない限り特別受益には該当しないとされています。
本件では、Aの学費が特別に多額なものといえるかが問題となりました。
大阪高裁は「被相続人の子供らが、大学や師範学校等、当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で、子供の個人差その他の事情により、公立・私立等が分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般であり、仮に、特別受益と評価しうるとしても、特段の事情のない限り、被相続人の持戻し免除の意思が推定されるというべきである。」と述べて、特別受益には該当しないと判断しました。