(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hは平成元年5月9日に死亡しました。
Hの法定相続人は、長男Aと長女Bの2人でした。
遺産分割審判において、Aは、農家の跡取りとしてHの農業を手伝ってきたことを主張しました。
その結果、一審では、Hの遺産総額(5500万円)のうちAの寄与分を7割と認めて、遺産総額から7割を控除した残額(1650万円)を2分した額(825万円)がBの取得分であるとされました。
これに対してBが抗告しました。
裁判所:東京高等裁判所
裁判年月日:平成3年12月24日
一審審判では、Aの寄与分を7割と認定したため、Bの取得分はBの遺留分額(5500万円×1/4=1375万円)を下回る結果となっています。
このように、相続人の一人の取得額が遺留分額を下回るような結果となる寄与分の定め方が許されるのかが本件の争点です。
東京高裁は「寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。」と述べて、一般論としては、他の相続人の取得額が遺留分額を下回る結果となる寄与分を定めることは違法ではないとの判断を示したものの、「しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(1031条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(904条の2第2項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。」と述べて、遺留分を侵害する結果となる寄与分を定めるには慎重でなければならないとの姿勢を示しました。
結論として、東京高裁は原審判を取り消して家庭裁判所に差し戻しました。