遺産分割前に相続人の1人が遺産を取り込んだ場合に関する平成30年民法改正について

遺産分割前に相続人の1人が遺産を取り込んだ場合に関する平成30年民法改正について

遺産の取り込み

被相続人の生前に、相続人の1人が被相続人と同居していたり、近くに住んでいたりした場合に、当該相続人が被相続人の預貯金を無断で引き出して費消したり、自分の預金口座へ移動させたりする事案がしばしば見られます。

遺産の取り込みについては、被相続人の生前に取り込むこともあれば、被相続人の死亡後に取り込むこともあります。

このような遺産の取り込みが行われた場合について、平成30年民法改正で取り扱いに変更がありました。

従来の取り扱い

相続人の1人が遺産を取り込んだ場合について、改正前においても、取り込んだ遺産について相続人全員が遺産分割の対象とすることに同意した場合には、運用上、遺産分割の対象として扱ってきました。

そのような合意が得られた場合は、取り込んだ遺産を遺産に戻した上で、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の配分を決めることになります。

従来の運用の問題点

しかし、相続人間での対立が激しい場合、遺産を取り込んだ相続人が「取り込んだ遺産を遺産に戻すこと」について同意することは少ないため、遺産に戻して遺産分割協議を行うことができず、別途不当利得返還請求訴訟で解決しなければならないという不便がありました(コラム「なぜ使途不明金は家庭裁判所で判断できないのか」参照)。

改正後の運用と注意点

改正民法では、遺産を取り込んだ相続人の同意がなくても、その他の相続人全員の同意があれば取り込んだ遺産を遺産分割の対象とすることができるようになりました(改正民法906条の2)。

ただし、上記の規定で遺産分割の対象とすることができるのは、相続人が相続開始後に処分した遺産に限られます。

相続開始前(被相続人の生前)に相続人が取り込んだ財産については、改正法の射程が及ばないので、従来どおり、不当利得返還請求訴訟等で解決する必要があります。

まとめ

平成30年民法改正により、相続開始後に相続人が処分した遺産については、当該相続人の合意がなくても、その他の相続人全員の合意があれば、処分した遺産を遺産分割の対象とすることができるようになりました。

しかしながら、相続開始前の財産の取り込みについては改正法の射程が及ばないため、今後も遺産の取り込みに関する不当利得返還請求訴訟はなくならず、引き続き多数の訴訟が起きると予想されます。

その意味では、法律改正による影響はそれほど大きくないといえるでしょう。

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