(事案を簡略化して説明します。)
被相続人Hは開業医であり、子Aと子Bはいずれも医師国家試験を目指していました。
Aは順調に大学に進学して医師国家試験に合格しました。これに対し、Bは大学受験で3年間浪人し、大学受験予備校へ3年間通学しました。大学入学後も留年が長引き、通常6年間で卒業できるところ5年間余計に在学することになりました。また、歯科医師国家試験に2年続けて不合格となり、国家試験予備校に2年間通うことになりました。
H死亡後、AはBの学費について通常より多く必要になった部分について特別受益に該当すると主張しました。
裁判所:東京高等裁判所
裁判年月日:平成17年10月27日
民法903条1項によれば、相続人が被相続人から「生計の資本として」贈与を受けた場合は、特別受益として遺産分割の際にその額を持ち戻すこととされています。
「生計の資本」に該当するか否かについては、一般的に、婚姻時の持参金や家の建築資金などは該当するとされていますが、学費については特別に多額なものでない限り特別受益には該当しないとされています。
本件では、Bの学費が相当多額であったことから、特別受益に該当するといえるのではないかが問題となりました。
東京高裁は、以下の学費等(生活費も一部含む)について特別受益に該当すると判断しました。
①大学受験予備校に通学した学費(3年分) 192万円
②大学受験料3年分 64万円
③大学授業料(通常より多く通学した5年分) 850万円
④大学5年間(通常より多く通学した期間)の生活費 720万円
⑤国家試験受験予備校の費用(2年分) 380万円
⑥国家試験受験中(2年間)の生活費 288万円
合計 2494万円
(なお、上記の他に自動車購入費用等についても特別受益に該当するとしています。)