(事案を簡略化して説明します。)
被相続人(遺言者)Hは、平成7年1月17日死亡しましたが、Hの相続人は、妻A、長女B、長男C、二男Dでした。
Hは、平成6年8月19日に自筆証書遺言(本件遺言)を作成しました。
本件遺言の内容は、以下のとおりでした。
①不動産の大半をAに相続させる。
②不動産の一部(土地)をE(法定相続人ではない)に遺贈する。
③残りの財産をB、C、Dに3分の1ずつの割合で相続させる。
④遺言執行者としてF(法定相続人ではない)を指定する。
Eは、平成7年6月20日に、上記②の遺贈を放棄しました。
平成7年10月30日、A、B、C、Dの4名はFの同意を得ないまま、本件遺言と異なる内容の遺産分割協議を成立させました。
これに対し、Fは、本件遺産分割協議が無効であることの確認を求めて提訴しました。
裁判所:東京高等裁判所
裁判年月日:平成11年2月17日
本件の争点は、ⅰ)遺言執行者であるFが提起した遺産分割協議の無効確認の訴えは適法か、ⅱ)遺言の内容と異なる本件遺産分割は無効か、の2点です。
東京高裁は「同目録1(2)の土地(本件遺言②の土地のこと)は、Eが遺贈を放棄したことにより遺産に復帰し、遺言執行の対象から除外され、改めてAらの遺産分割協議によりその帰属者が定められるべきものとなったのであり(本件遺言ではEが遺産を放棄した場合の措置を何ら定めていない。)、その余は、本件遺言の効力の発生(Hの死亡)と同時に、本件遺言のとおり、Aら各自に相続により確定的に帰属したものと解されるから、いずれも遺言の執行の余地はなく、Fが遺言執行者としてこれに関与する余地はないものといわざるを得ない。(なお、付言すれば、(中略)本件遺産分割協議は、原判決別紙遺産目録1(2)の土地についての遺産分割の協議とともに、その余の遺産についてAら各自が本件遺言によりいったん取得した各自の取得分を相互に交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当であり、右の合意は、遺言執行者の権利義務を定め、相続人による遺言執行を妨げる行為を禁じた前記民法の各規定(民法1012条1項及び1013条のこと)に何ら抵触するものではなく、有効な合意と認めることができる。)」と述べて、Fによる訴えは、本件遺産分割協議の無効を確認する利益がなく、不適法と判断しました。
(なお、不適法却下の結論ですので、上記争点「ⅱ)遺言の内容と異なる本件遺産分割は無効か」については判断されていません。)