今回は、遺産の争いで起こる使途不明金問題についてお話しします。
例えば、親が亡くなってその子らが遺産分割の協議をする場合、一般的には親が亡くなった時点で残っている遺産の分け方について話し合います。
しかし、そうではなく、「親の生前に親のお金を使い込んだのではないか」ということで紛争が起きることがあります。
この紛争類型で多いのは、親と同居していた子が使い込みを疑われるケースです。
親と同居している場合、親が子に通帳やキャッシュカードの管理を任せているケースが結構あります。
そして、親はたいてい年金をもらっていますから、贅沢をしなければ年金で生活費を賄えることが多いです。
にもかかわらず、親の預金が大幅に減少しているような場合には、親と同居していた子が親の金を使い込んだのではないか、と疑われることになります。
最近、この類型の裁判が増えています。
どうして増えているのでしょうか。
以前の遺産分割のやり方は、親が亡くなった場合、同居していた子が「親の遺産はこれだけです」と言って、親の口座の残高証明書を見せて、例えば、「残っているのは1000万円です。これをみんなで分けましょう。」という形で話を進めていました。
この場合、他の子が、「ちょっと待って。親の預金は5000万円くらいあったはずだ。」と主張しても、5000万円の預金が存在したことを証明することは困難でした。
なぜかというと、以前は、相続人が単独で金融機関に対して、「親の口座の過去の取引履歴を開示してほしい。」と請求しても金融機関は、相続人全員の同意がなければ開示してくれなかったのです(東京高判平成14年12月4日)。
ですから、以前は、過去の親の口座の取引履歴を入手することが難しく、使い込みを証明することが困難でした。
ところが、この争点に関して、最高裁は、平成21年1月22日、「相続人が単独で過去の取引履歴の開示を求めることができる。」と判断しました。
過去の取引履歴が開示されると、親が生前にいくら預金を持っていたか、不自然な出金がないか、等が明らかになりますので、使い込みの証拠を入手しやすくなったのです。
しかし、この判決が出た当時は、それほど大きな話題にはなりませんでした。
その後、時間が経つにつれて徐々にこの判例が知られるようになり、親の口座の生前の取引履歴を入手するケースが増えてきました。
その結果,使途不明金があるということで,同居の子が「使い込んだのではないか」と訴えられるケースが増えているのです。
ただし、大きなお金が出金されているというだけで、直ちに「子が使い込んだ」ということにはなりません。
親自身に必要があって出金した場合もありますし、出金があっても親の意思で子どもに贈与したのであれば、「使い込み」とはいえません。
したがって、不自然に大金が出金されているという事実に加えて、親がそのようなお金を必要としていなかったことや親の意思によらずにお金が子どもの手に渡ったことなどについても証明が必要です。