相続人全員が相続放棄した場合、どうなる?

相続人全員が相続放棄した場合、どうなる?

相続財産は相続財産法人に帰属する

相続人全員が相続放棄した場合、相続財産の処理は通常の相続手続きとは異なる流れをたどります。

まず、相続放棄とは、相続人が被相続人の財産(プラスの財産とマイナスの財産の両方)を一切受け取らない意思表示を裁判所に対して行うことを指します。
これにより、その相続人は最初から相続人ではなかったものとして扱われます(民法939条)。

相続放棄を行うと、次順位の相続人(例えば、子が放棄した場合は親、親が放棄した場合は兄弟姉妹など)に相続権が移りますが、全ての相続人が相続放棄を行った場合、相続財産は「相続人のない財産」となり、法律的には「相続財産法人」が成立して(民951条)、相続財産法人に相続財産及び相続債務が帰属します。

もっとも、法人といっても、相続財産と相続債務のみで構成される概念上のものであり、株主などの構成員は存在しません。

相続財産清算人の選任

相続人が存在しない場合、上記のとおり、相続財産や相続債務は概念上の「相続財産法人」に帰属することになります。

この「相続財産法人」に対して、相続債権者が金銭の支払いを請求したい場合には、家庭裁判所に対して「相続財産清算人」の選任を申し立てます。
そして、家庭裁判所によって選任された相続財産清算人は、相続財産を換価し、相続債務を整理し、必要な清算を行います。

上記のように、相続債権者等の利害関係人が家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を申し立てると、相続財産清算人が選任されますが、誰も選任申立を行わなければ相続財産清算人は選任されません。

その場合、概念上の「相続財産法人」が相続財産を保有したままの状態が続きます。

特別縁故者への財産分配

相続財産清算人が選任された場合で、遺産の整理が進められた後、相続人がいない場合でも、特定の人が財産を受け取れる可能性があります。いわゆる「特別縁故者」です(民法958条の2)。

特別縁故者とは、被相続人と生前に特別な関係を持っていた者(例えば長年世話をしていた人や事実上の配偶者など)を指します(特別縁故者として認められる要件については、コラム【特別縁故者の判断基準】参照)。

特別縁故者は、家庭裁判所に対して財産の分配を求めることができ、認められれば相続財産の全部又は一部を受け取ることが可能です。

相続放棄後の財産の保存義務

相続放棄をした相続人であっても、相続財産に関して一定の保存義務を負います(民法940条)。

民法940条によると「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」とされています(相続放棄後の保存義務の詳細については、コラム【相続放棄後の管理責任(相続放棄後に建物が倒壊したら責任が発生する?)】参照)。

まとめ

全ての相続人が相続放棄をすると、遺産は概念上の相続財産法人に帰属します。

相続財産法人に対して金銭請求等を行いたい場合は、家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を申し立てます。相続財産清算人が選任されると、債務の整理や債権者への弁済が行われます。

また、場合によっては、特別縁故者が相続財産の全部又は一部を受け取ることがあります。

なお、相続放棄後も一定の条件下では相続財産の保存義務が発生します。

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