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相続債務とは、被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務です。例えば、借入金、未払金、滞納している家賃・水道光熱費などです。
間違われやすいものに葬儀費用があります。葬儀費用は相続税の計算においては遺産総額から差し引くことができるので「相続債務」のように錯覚しやすいのですが、「被相続人が死亡したときに現に存在した」債務ではないので、相続債務ではありません。
遺産分割協議において、相続人間で相続債務を誰が負担するかについて話し合うことは可能です。
実際に、被相続人が事業を営んでいた場合などにおいて、相続人間の協議の結果、事業を引き継ぐ相続人が事業用不動産を承継するとともに事業に関する借入金債務を負担することを約束するということはよく行われています。
ただし、相続債務について相続人間で話し合って合意に至ったとしても、当該合意は相続債権者に対して主張できないという点に注意する必要があります。
なぜかというと、例えば、被相続人の遺産が5億円あり、金融機関からの借入金が3億円あるという場合、仮に相続人をA、B、Cの3人として、相続人全員で、Aが5億円の遺産を取得し、Bは何も取得せず、Cが3億円の債務だけ引き受けるという合意ができたとします。
この合意を金融機関に主張できるとなると、金融機関はたまったものではありません。もし、Cが全く資産を有していなければ金融機関は貸付金を1円も回収することができない結果となります。
したがって、相続債務の負担について相続人間で合意が形成されたとしても、当該合意は相続債権者には主張できないのです。
金融機関からの借入金のような可分債務については、相続開始と同時に法定相続分に従い当然に分割されて各相続人に承継されることになりますので(最高裁昭和34年6月19日判決)、相続人間においてどのような合意があろうと、相続債権者としては法定相続割合に従って各相続人に対し請求することが可能です。
つまり、上記の例でA、B、Cの相続割合が等しいとすると、金融機関はA、B、Cに対してそれぞれ1億円ずつの請求を行うことができます。
上記のとおり、相続債務に関する相続人間の合意内容を金融機関に主張することはできません。
相続人間の合意を金融機関に認めてもらいたい場合には、金融機関と別途交渉する必要があります。
金融機関との交渉の結果、金融機関が特定の相続人のみが債務者となることについて了承してくれる場合にはしかるべき書面を交わすことになります(一般的には免責的債務引受契約という形式を取ります。)。
遺産分割協議で遺産分割について結論が出ない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。
遺産分割調停の場においても、共同相続人全員の合意があれば相続債務について協議することは可能です。
そして、相続人全員で合意が形成されれば、その内容が調停調書に記載されます。
ただし、この場合でも、相続人による合意内容を相続債権者に対して主張することはできません。
理由は前記と同様です。
まず、前記のとおり、金融機関からの借入金のような可分債務については、相続開始と同時に法定相続分に従い当然に分割されて各相続人に承継されますので、遺産分割審判の対象とはなりません(最高裁昭和34年6月19日判決)。
次に、不可分債務については、相続開始と同時に共同相続人の全員に帰属して各相続人が当該債務の全部について責任を負います。
したがって、不可分債務についても遺産分割審判の対象にはなりません。
相続債務とは、被相続人が死亡したときに現に存在した被相続人の債務です。
共同相続人間で、相続債務を誰が負担するかについて協議を行うことは可能です。遺産分割調停において協議を行うことも可能です。
もっとも、遺産分割協議や遺産分割調停において相続人間で合意が形成されたとしても、当該合意内容を相続債権者に主張することはできません。
遺産分割審判において相続債務は審判の対象となりません。