遺産である不動産に関する諸問題

遺産である不動産に関する諸問題

はじめに

遺産に不動産が含まれている場合、遺産分割が終了するまでの間に様々な問題が生じることがあります。また、遺産分割が終了した後においても問題が生じることがあります。

一部の相続人に対する不動産明渡請求は可能か?

相続財産である不動産を少数割合の共有持分しか有していない相続人が占有している場合、多数割合の共有持分を有している相続人は、不動産を占有している相続人に対して不動産の明渡を請求できるでしょうか。

この点、「共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。」(民法252条1項前段)との規定からすれば、過半数の共有持分を有している相続人は不動産を占有している少数持分の相続人に対して明渡請求が可能なようにも思えます。

しかし、少数割合とはいえ共有持分は所有権の一形態であり、条文上も「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」(民法249条1項)と規定されています。

したがって、多数割合の共有持分を有しているからといって、ただちに明渡を請求することはできないと考えられます。

判例も、「他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといって(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従って、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。」と判示しており(最高裁昭和41年5月19日判決)、当然には明渡請求を行うことはできないとしています。

被相続人と同居していた相続人に対する建物の明渡請求は可能か?

上記のとおり、多数持分権者といえども少数持分権者が不動産を占有している場合に明渡請求を行うことは困難ですが、1人の相続人が被相続人と同居していた場合は、さらに明渡請求は困難となります。

平成8年12月17日の最高裁判決によると、相続人の1人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居していた場合には、遺産分割終了までの間は使用貸借関係が存続するとしているので、いっそう、明渡を求めることはできないということになります(詳しくはコラム「親の死後に遺産である建物に住み続ける相続人に対し賃料を請求できるか?」をご覧ください。)。

相続人は内縁配偶者に対して明渡を請求できるか?

内縁の配偶者には相続権がありません。

したがって、被相続人の死後において、内縁の配偶者は共有持分権も有していないので、相続人からの明渡請求に応じなければならないようにも思えます。

しかし、相続人からの明渡請求に対しては権利の濫用として明渡を拒むことができる場合が多いと思われます(最高裁昭和39年10月13日判決参照)。

まとめ

遺産である不動産を相続人の1人が占有している場合、多数割合の共有持分を有している相続人であっても、ただちに明渡を請求することはできません。

また、相続人の1人が被相続人と同居していた場合には、遺産分割が終了するまでの間は明渡を請求することはできません。

内縁配偶者が遺産である不動産を占有している場合、相続人が内縁配偶者に対して明渡請求を行ったとしても、権利の濫用として請求が認められない場合が多いと思われます。

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