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遺産に収益不動産(賃貸不動産)がある場合、相続開始後から遺産分割が終了するまでの間にも賃料が発生し続けます。
この賃料をどうやって管理し、どうやって分けるのかが問題となります。
共同相続人の間で収益不動産を取得する人が決まっており、揉めることがないという場合には、不動産を取得する相続人が賃料の受取人になり、賃借人に対して賃料の振込口座の変更を伝えて、その相続人名義の口座で賃料を受領すればよいでしょう。
収益不動産を取得する相続人が決まっていない場合は難しい問題が生じます。
一般に、被相続人が死亡したことを金融機関が知ると、被相続人名義の口座が凍結されて入出金ができなくなります。
そのため、これまで被相続人名義の口座に振り込まれていた賃料を誰の口座で受領して管理するかという問題が生じます。
相続人間でとりあえず仮の代表者を決めて、仮の代表者の口座へ振り込んでもらうということが実際にはよく行われています。
また、管理会社が賃料を受け取っていた場合は、そのまま管理会社が受領し続けるケースが多いでしょう。
賃料の分配方法については、相続人間の協議で話し合いがつけば、話し合いの結果に従って分けることになります。
例えば、収益不動産を最終的に誰が相続するかについては決まっていないが、当面1人の相続人が代表として賃料を受領し、半年に1回、他の相続人に分配する(この場合、一般に、固定資産税などの経費を控除してから分配する)などの方法がとられることがあります。
上記のような方法で分配が行われることなく、仮の代表者が長期間にわたって賃料を受領し続ける場合があります。
遺産分割の争いが激しくて相続人間で話し合いがまとまらないとか、話し合うことすらできないような場合には、このようなことが起こりえます。
このように争いが激しい場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。
遺産分割調停では、一般に、不動産、預貯金、株式、相続開始後の賃料などの全てについて話し合われますので(場合によっては負債についても協議します)、それぞれの金額を評価したうえで、バランスが取れるように遺産分割の方法を検討することになります。
調停においての話し合いの結果、例えば、相続人がA、B、Cの3人だとした場合、Aが収益不動産と相続開始後の賃料を取得する、Bが自宅不動産を取得する、Cが預貯金を取得する、などの結論に至った場合には、その旨の調停調書が作成されて解決します。
なお、上記のような解決方法の場合、相続人間の調整のために相続人間で金銭のやり取りを行う場合があります(代償金の支払い)。
調停で解決できない場合は、遺産分割審判手続に移行します。
ここで注意しなければいけないのは、相続開始後の賃料の帰属や分配の問題については、遺産分割審判では判断されないということです。
すなわち、判例では、遺産共有の状態にある不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、当該不動産を共有する相続人がその相続分に応じて分割単独債権として取得するとされているからです(最高裁平成17年9月8日判決)。
(分割単独債権だとなぜ審判の対象とならないかについては、コラム「貸金は遺産か」を参照)
以上のとおり、遺産分割審判では相続開始後の賃料の帰属や分配については判断の対象とはなりません。
そうすると、仮の代表者が受領していた賃料を他の相続人に対して分配しない場合には、他の相続人はどうすればよいのでしょうか。
その場合、他の相続人が賃料の分配を請求するためには民事訴訟を提起する必要があります(なぜ民事訴訟と提起しなければならないかについては、コラム「貸金は遺産か」及び「なぜ使途不明金は家庭裁判所で判断できないのか」を参照)。
遺産の中に収益不動産がある場合、相続開始後の賃料については、共同相続人間で分配方法について話し合いがつけば、話し合いの結果に従って分配することになります。
話し合いがつかない場合は、遺産分割調停の場で話し合いを行い、結論が出れば調停調書が作成されて解決します。
調停でも解決しない場合は遺産分割審判に移行しますが、遺産分割審判では、相続開始後の賃料の帰属や分配については判断の対象となりません。
したがって、賃料を受領して分配しない相続人に対して賃料の分配を求めるためには民事訴訟を提起する必要があります。