平成30年民法改正により、遺留分を算定するための財産の価額に加算する相続人に対する贈与(特別受益)については、相続開始前10年間にしたものに限ることになりました。
改正の理由としては、
改正前の民法では、共同相続人に対する生前贈与(特別受益)が行われた場合には、その時期を問わず、原則としてその全てが遺留分を算定するための財産の価額に算入されると解されてきました(最高裁平成10年3月24日判決)。
しかし、上記最高裁判決によると、被相続人が相続開始時の何十年も前にした相続人に対する贈与の存在によって、第三者である受遺者または受贈者が受ける減殺の範囲が変わることになり、第三者である受遺者または受贈者に不測の損害を与えるとの不都合が指摘されていました。
また、相続開始時の財産が債務超過でも、何十年も前の贈与の価額が加算されることにより資産超過の状態に変わりうることとなり、遺留分制度の潜脱防止の観点から短期間に限って生前贈与を遺留分算定の基礎となる財産に含めることとした民法の規定の趣旨を没却するとの指摘もありました。
そこで、改正民法では、相続人に対する贈与(特別受益)については、相続開始前の10年間になされたものに限って遺留分を算定するための財産の価額に加算することとしました。
ところで、相続人に対する贈与(特別受益)のうち相続開始前の10年間にされたものに限るのは、「遺留分を算定するための財産の価額」に算入する計算式についてであり、「遺留分侵害額」を求める計算式においては、「遺留分権利者の特別受益の額」を相続開始前の10年間にされたものに限定せず、これに加算します。
このことは、明文の規定より明らかです。
すなわち、民法1046条と903条を見ると、以下のようになっています。
第1046条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 〔略〕
三 〔略〕
第903条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
上記のとおり、遺留分侵害額の計算においては、「遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額」が控除されることになっており、「第903条1項に規定する贈与」は相続開始後10年間にされたものに限定されていません。
この点は誤解しやすい点ですので注意が必要です。